100億ダウンロードの裏に多くの課題も? スマートフォンのアプリマーケット事情

スマートフォンの人気と共に、大きな注目を集めるようになった“アプリ”。その人気が盛り上がる一方で、いくつかの問題も見られるようになった。AppStoreやAndroidマーケットに代表される、アプリを配信するアプリマーケットの環境改善は進んでいるのだろうか。

アプリマーケットのダウンロード数は100億を超える

 スマートフォンの広まりで、近年注目を集めるようになった要素の1つに“アプリ”がある。

 従来の携帯電話では、セキュリティの関係上、アプリを開発したり、配信したりする上で、さまざまな制約が課せられており、自由にアプリケーションを提供することは困難であった。だがスマートフォンの場合、そうした制約が少なく、より自由に開発や配信が可能であることから、技術者が非常に高い関心を寄せるようになり、多くのアプリが提供されるようになっている。

 さらにスマートフォン自体の市場が広がり、多くのユーザーが手にするようになったことで、アプリに対する関心は日に日に高まっている。現在、テレビ番組や一般の雑誌などでスマートフォンのアプリが取り上げられる機会が増えているが、このような事象も、スマートフォンがガジェット好きのアイテムであった時代には考えられなかったことだ。

 アプリの活況ぶりは、それを配信する専用のマーケットの数字から見て取ることができる。現在、iPhoneなどiOS向けのアプリケーションマーケット「AppStore」で配信されているアプリが50万以上、Android向けの「Androidマーケット」で配信されているアプリは25万以上といわれている。

 ダウンロードされているアプリの数も、かなりのレベルに達している。AppStoreは今年1月17日、全世界で100億ダウンロードを達成したほか、Androidマーケットも12月6日に100億ダウンロードを達成。非常に活況を呈していることが理解できるだろう。

全く盛り上がらなかったアプリビジネス

 スマートフォンのアプリと、その利用が大きな盛り上がりを見せる一方、低迷し続けていたのが、アプリの販売を商売としている企業である。アプリの販売スタイルは、現在のところ、1本当たりいくらで販売する“ダウンロード課金”が一般的。だがこの仕組みによるビジネスは、今なお相当厳しい。

 スマートフォンのアプリマーケットは、自由度が高い分、携帯電話と比べ、審査が比較的緩く、法人だけでなく個人でも配信ができる。だがそれだけにライバルも多く、早い段階で過当競争に陥り、アプリの低価格化、ひいては無料化が当たり前のものとなってしまっている。

 現在、アプリ・マーケットには、多くの無料アプリが氾濫しており、無料だけでもそこそこ満足できるものが手に入る。また有料アプリも数十円から数百円程度のものが大半を占めている。こうした状況から、缶ジュース1、2本程度の価格のアプリでも購入に躊躇してしまう人や、1000円を超えるアプリなどもってのほかと感じる人も少なくないようだ。

 クレジットカードだけでなく、プリペイドカードや携帯電話キャリアの電話代と請求できる課金システムなども提供されており、課金環境については改善が進んでいる。だが「アプリはタダ」という意識が早いうちから根付いてしまったことが、アプリを販売して利益を得るビジネスを困難なものにしてしまっているようだ。

 アプリビジネスの数少ない成功例としては、総ダウンロード数が5億を超えるゲーム「Angry Birds」が上げられるが、このアプリの価格も日本円にして85円程度(しかも有料なのはiOS向けのみで、Android版は無料で、広告による収益のみ)。全世界で億単位のダウンロード数を稼がなければヒットが生まれないビジネスが、果たして効率的かどうかと考えると疑問だ。

“アプリ内課金”でビジネス改善の兆し

 こうしたことから、「スマートフォンのアプリは儲からない」と長く言われてきたが、その状況にも改善の兆しが見えつつある。きっかけは“アプリ内課金”だ。

 これはアプリの中でアイテムやプラグインなどを販売し、それに対して、料金を支払ってもらうものだ。ソーシャルゲームなどで注目されている“アイテム課金”の仕組みが、スマートフォンのアプリ内で実現できると考えれば分かりやすいだろうか。AppStore、Androidマーケット共に当初はこの仕組みが存在しなかったが、後から導入されたことで、アプリによるビジネスの幅が大きく広がることとなったのである。

 アプリ内課金の活用が広まってきたことにより、“超薄利多売”のダウンロード課金と、広告による収益以外にビジネス拡大の手段がなかったスマートフォンアプリにおいて、ようやく効率よく収益を得られる形ができつつある。

 その傾向は、iPhone向けAppStoreの「トップセールス」から見ることができる。執筆時点において、ここには芸能人を活用したCM展開で知られる「GREE」のゲームが多くランクインしているのだが、GREEスマートフォンで月当たり20億コイン、つまり20億円の売上を上げるタイトルが生まれていると公表している。スマートフォンでかなりの売上を上げていると見ることができよう。

 また、「iTunes Rewind 2011」のトップセールス部門において、3位を獲得した「カイブツクロニクル」などを提供するアドウェイズという企業は、3本のスマートフォン向けゲームとアプリ内課金により、7〜9月のアプリ売上合計が4億7500万円に達していると公表している。こうした傾向から、アプリ内課金によって、いくつかの企業がスマートフォンでも高い収益を得られるようになってきたことが理解できる。

より一層の改善が求められるアプリマーケット

 とはいえ、アプリビジネスに関する課題がまだまだ多いのも事実だ。そして、大きな課題の多くはアプリマーケットの問題へと結びつく。

 マーケットからアプリを探すのが難しいというのは、かねてより言われている課題だ。マーケット内には、世界各国から集まった数十万もアプリがあるのだから、その中から自分の国に合った良質なアプリを自力で見つけるのがいかに困難かというのは想像に難くない。

 最近では、AppStoreが日本向けのアプリを前面に押し出すようになるなど改善が図られているほか、良質なアプリを厳選して紹介するWebサイトや書籍の増加など、マーケット外からの解消手段も多く提供されるようにはなった。だが、アプリの利用に熱心でないユーザーが、アプリマーケットをするには敷居が高いことに変わりはなく、ランキングや口コミに依存し、定番アプリに人気が集まる傾向は変わっていない。より一層の改善が求められる。

 アプリを利用したユーザーがマーケット上に記述する“評価コメント“の欄も、マーケット側の解消が求められる要素の1つだ。アプリに対するユーザーの“捨て台詞”のような批判コメントが大量に記述される一方、アプリ制作者がそれに対応する場は、非常に限られている。また、コミュニケーション系アプリの評価コメント欄に自身のIDをさらし、出会い系サイトのように利用するケースが少なからず見られるなど、新たな問題も浮かび上がっている。アプリマーケット、そして、アプリ自体の健全性を高める上でも、ユーザーコメントの徹底した管理体制が望まれるだろう。

 スマートフォンのアプリと、それを配信するアプリマーケットは急速な盛り上がりを見せているが、一方で以前取り上げたセキュリティ的側面や、今回取り上げたビジネス的側面など、さまざまな問題を生み出しているのも事実だ。より一層多くのユーザーがスマートフォンを利用するようになる今後、アプリマーケットにも多くの改善が求められているといえよう。