「Google Chrome 19」の安定版リリース タブ同期機能を追加

 米Googleは5月15日(現地時間)、Webブラウザ安定版のアップデートとなる「Google Chrome 19」(19.0.1084.46)をリリースした。

 Google Chromeにログインすると利用できる同期機能にタブが加わった。1台のPC上のGoogle Chromeで開いているタブが、同じアカウントでログインしている他の端末上のChromeと同期される。

 Ver.19へのアップデートは既に可能だが、ユーザー全員がこのタブ同期機能を利用できるようになるには数日かかるという(本稿執筆段階ではまだ利用できなかった)。

 同期されたタブは、「新しいタブ」上に追加される「Other devices」メニューで選択できる。

 タブの同期は、Android 4.0(コードネーム:Ice Cream Sandwich)向けに2月に公開された「Chrome for Android Beta」にも反映される。

 Chromeでは、今回追加になったタブのほか、ブックマーク、パスワード、アドレスバー履歴、テーマ、各種設定、拡張機能、自動入力設定、アプリケーションを同期できる。同期するには、ブラウザ右上の設定アイコン(レンチのアイコン)で「Chromeにログイン」を選択し、同期したい項目を選択する。

 セキュリティ関連では、合計18件の脆弱性に対処した。危険度は、Googleの4段階評価で上から2番目に高い「High」が7件、中程度の「Medium」が6件、最も低い「Low」が5件となっている。

Facebook、IPO株価範囲を34〜38ドルに引き上げ

世界最大規模のソーシャルネットワークであるFacebookは、同社株価を引き上げることを決断した。当然ながら、投資家からの強い反応を受けての判断である。

 Facebookは米国時間5月15日、米証券取引委員会(SEC)に提出したS-1申請書を改訂し、株式公開時の同社株価を1株あたり34〜38ドルの間にすると述べた。同社が、3億3740万株という売り出し予定の普通株式のすべてに加えて、需要過多に備えて追加で用意している5060万株を、その株価範囲の上限で売却した場合、同社はIPOで最大147億ドルを調達する可能性がある。

 Facebookは、これまでにSECに提出していたS-1申請書において、同社のIPO株価を28〜35ドルの間にすると発表していた。その場合、同社の調達額は最大で136億ドルとなる予定だった。

 FacebookIPO株価範囲を引き上げるといううわさは14日に浮上しており、そのきっかけとなったのは、同社がIPO株価範囲の引き上げを計画しているとの情報を匿名の情報筋から入手したというAll Things DigitalのKara Swisher氏の報道であった。わずか1日前には、Facebookに対する投資家らからの応募が予想よりも早く集まり、17日に予定されていた締切日を前に15日にも募集枠に達する可能性があるとも報じられていた。

 Facebookの最新申請書によると同社のアクティブユーザーは9億100万人にのぼるという。同社は、予定通りに17日には株価を正式に定め、18日にIPOを実施すると見込まれている。

この記事は海外CBS Interactive発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。

Flipboardが日本語版を公開--国内でもパートナー拡大へ

 Flipboardは5月16日、iPadiPhone向けのアプリ「Flipboard」の日本語版を公開する。5月16日10時の公開予定だったが、現時点ではまだ英語版のみが公開された状態。App Storeより無料でダウンロードできるようになる予定だ。

 Flipboardは、“世界初のソーシャルマガジンアプリ”をうたうニュースアグリゲーションアプリだ。新聞や雑誌といった印刷媒体のようなインターフェースで、紙をめくるような感覚で、FacebookTwitterをはじめとしたソーシャルメディアの情報や登録したRSSフィード、キュレーターが選んだコンテンツなどを閲覧できる。

 また、Facebookのコンテンツであれば「いいね!」、Twitterのコンテンツであればリツイートやお気に入りへの登録など、メディアにあわせてFlipboard上からアクションを取ることもできる。2012年2月までに800万件のダウンロードがなされ、月間約20億フリップ(ページをめくった数)の実績がある。

印刷メディアの美しさをウェブに

 自身で起業した3D技術関連の会社をNetscapeに売却して同社で務め、その後音声コミュニケーションの会社を再び起業してマイクロソフトに売却したというFlipboard CEOのMike McCue氏。同氏は、Netscapeに在籍していた90年代半ばに初めてウェブと出会ったと語る。

 「当時のウェブはシンプルなもので、1つのサイトが別のサイトにつながるというものだった。しかしソーシャルメディアが台頭し、個人がさまざまなウェブにつながっていくようになった。多岐にわたる情報をどうキュレーションしていくかが課題になり、そこにチャンスも生まれてきた」(McCue氏)

 McCue氏がFlipboardを提供することになった理由として、大きく3つの出来事があったと説明する。まず1つめは、さまざまなソーシャルメディアをとりまとめて1カ所で見られるようなサービスが存在しなかったことだ。そして2つめは、ウェブの世界で新聞や雑誌といった印刷メディアの表現が再現できていなかったことだという。「レイアウトやタイポグラフィも上手に考えられた記事がある。しかし美しい記事が雑誌からウェブに移されるとき、ブラウザやサイトのナビゲーションが必要となる。そして収益のためには広告も載る。製品を担当する人間として、デザインに問題があると考えた」(McCue氏)

 そして3つめとなるのがiPadの登場だ。当初、Flipboardはウェブサービスとしてリリースされる予定だったという。しかしiPadが発表されたことで、前述のレイアウトやナビゲーションの制約から解放されたソーシャルマガジンが作れると確信したという。「同じ機能をiPhoneに持たせることも重要だと思った。それもあってiPhone用のデザインも考えたし、今後はそれ以外のデバイスについても適用できると思っている」(McCue氏)。数カ月以内にもAndroid版のFlipboardも提供される見込みだという。


コンテンツパートナーを日本でも拡大

 同社では、すでに世界75カ国2000社のパブリッシャーともパートナーシップを結んでおり、各社のコンテンツをFlipboardに最適化された形で閲覧することも可能だ。

 パートナーのコンテンツはHTML5ベースで提供され、印刷媒体の「全面広告」のようにページをめくった際に全面表示される広告を入れることができる。広告に関してはパブリッシャーが印刷媒体同様に販売することが可能だ。パートナーとしてコンテンツを提供する「VANITY FAIR」では、現在映画「Snow White and the Huntsman」の広告を配信している。広告をタップすると映画の公式Twitterページに遷移し、Flipboard上で映画に関する情報や予告動画の閲覧、チケット購入、各コンテンツのリツイートなどが可能だという。

 広告売り上げについては、Flipboardとのレベニューシェアをする。レベニューの具体的な数字は非公開としたが、パブリッシャーの割合が高いという。「重要なのは、Flipboardの成功は、パブリッシャーの成功と共にあるということ」(McCue氏)

 今回の日本語版提供では、インターフェースの日本語化に加えて、日本のパートナーのコンテンツの閲覧(パートナー以外にも、日本のメディアのRSSもデフォルトで登録されている)や、日本在住のキュレーターが選んだコンテンツの閲覧が可能になる。日本では、すでに日経BP社がパートナーとなっているほか、複数社と話し合いを持っているという。また日本では、広告販売においては広告代理店とパートナーシップを結んでいくという。国内拠点の設立についても検討しているが、数カ月はかかるとした。

<NTTドコモ>夏商戦向け19機種を発表 初の「らくらくスマホ」も

 NTTドコモは16日、新型スマートフォンなど夏商戦向けの19機種を発表した。スマホタブレットともOS(基本ソフト)はアンドロイドの最新版4.0で、高速通信Xi(クロッシィ)にも11機種が対応。4月1日に開局したスマホ向けマルチメディア放送「NOTTV」は5機種で視聴できる。また、高齢者向け「らくらくホン」シリーズに初めてスマートフォンが登場する。 

 ◇パナ「ELUGA」を国内で発売

 スマートフォンは液晶画面のサイズのバリエーションを増やし、画面サイズが3インチ台のコンパクトなモデルから、文庫本サイズの5インチまでそろえた。また、バッテリー容量が平均で20%増えた。

 海外メーカー製は「GALAXY(ギャラクシー)」(サムスン電子)、「Optimus(オプティマス)」(LG電子)など4機種で、LG電子はおサイフケータイワンセグなどの日本向け機能をすべて搭載したモデルを初めて発売する。

 国内メーカー製は、「Xperia(エクスペリア)」(ソニーモバイルコミュニケーションズ)、「MEDIAS(メディアス)」(NECカシオモバイルコミュニケーションズ)、「ARROWS(アローズ)」(富士通モバイルコミュニケーションズ)などで、エクスペリアは国内向けでは初めてソニーブランドになる。また、パナソニックは海外向けモデル「ELUGA(エルーガ)」を国内市場に投入する。

 ◇「ジョジョの奇妙な冒険」とのコラボも

 人気漫画「ジョジョの奇妙な冒険」とのコラボレーション(コラボ)機種「L−06D JOJO」もファンには注目だ。連載25周年記念の限定モデルとして、本体にイラストが描かれ、特別編集版のコミックがあらかじめインストールされているほか、作中のせりふを使った予測変換辞書を搭載している。ドコモは今後も、コラボレーションモデルを開発していく見込み。

 ◇らくらくスマホ向け新料金プラン

 スマホ「初心者向け」の新サービスとして、新たに、らくらくスマホ向けの専用料金プラン「らくらくパケ・ホーダイ」(月額2980円、FOMA)の提供を始めるほか、今年1月に発表した「スマートフォンあんしん遠隔サポート」の対応を、当初の2機種から全機種に拡大する。

 また、クラウドサービスを「ドコモ クラウド」として本格的に始める。角川書店とアニメ配信事業を行う合弁会社を設立(5月下旬予定)し、dマーケットに7月、アニメストアを新設。当面、月額420円で見放題になるサービスを提供する。MUSICストアでも、これまでの楽曲ごとのダウンロード配信に加え、月額315円の音楽ストリーミングサービスを始める。音楽の聴き放題サービスは5月15日、KDDIが月額315円の「うたパス」を発表している。【岡礼子】

Flipboardが日本語版を公開--国内でもパートナー拡大へ

 Flipboardは5月16日、iPadiPhone向けのアプリ「Flipboard」の日本語版を公開する。5月16日10時の公開予定だったが、現時点ではまだ英語版のみが公開された状態。App Storeより無料でダウンロードできるようになる予定だ。

 Flipboardは、“世界初のソーシャルマガジンアプリ”をうたうニュースアグリゲーションアプリだ。新聞や雑誌といった印刷媒体のようなインターフェースで、紙をめくるような感覚で、FacebookTwitterをはじめとしたソーシャルメディアの情報や登録したRSSフィード、キュレーターが選んだコンテンツなどを閲覧できる。

 また、Facebookのコンテンツであれば「いいね!」、Twitterのコンテンツであればリツイートやお気に入りへの登録など、メディアにあわせてFlipboard上からアクションを取ることもできる。2012年2月までに800万件のダウンロードがなされ、月間約20億フリップ(ページをめくった数)の実績がある。

印刷メディアの美しさをウェブに

 自身で起業した3D技術関連の会社をNetscapeに売却して同社で務め、その後音声コミュニケーションの会社を再び起業してマイクロソフトに売却したというFlipboard CEOのMike McCue氏。同氏は、Netscapeに在籍していた90年代半ばに初めてウェブと出会ったと語る。

 「当時のウェブはシンプルなもので、1つのサイトが別のサイトにつながるというものだった。しかしソーシャルメディアが台頭し、個人がさまざまなウェブにつながっていくようになった。多岐にわたる情報をどうキュレーションしていくかが課題になり、そこにチャンスも生まれてきた」(McCue氏)

 McCue氏がFlipboardを提供することになった理由として、大きく3つの出来事があったと説明する。まず1つめは、さまざまなソーシャルメディアをとりまとめて1カ所で見られるようなサービスが存在しなかったことだ。そして2つめは、ウェブの世界で新聞や雑誌といった印刷メディアの表現が再現できていなかったことだという。「レイアウトやタイポグラフィも上手に考えられた記事がある。しかし美しい記事が雑誌からウェブに移されるとき、ブラウザやサイトのナビゲーションが必要となる。そして収益のためには広告も載る。製品を担当する人間として、デザインに問題があると考えた」(McCue氏)

 そして3つめとなるのがiPadの登場だ。当初、Flipboardはウェブサービスとしてリリースされる予定だったという。しかしiPadが発表されたことで、前述のレイアウトやナビゲーションの制約から解放されたソーシャルマガジンが作れると確信したという。「同じ機能をiPhoneに持たせることも重要だと思った。それもあってiPhone用のデザインも考えたし、今後はそれ以外のデバイスについても適用できると思っている」(McCue氏)。数カ月以内にもAndroid版のFlipboardも提供される見込みだという。

コンテンツパートナーを日本でも拡大

 同社では、すでに世界75カ国2000社のパブリッシャーともパートナーシップを結んでおり、各社のコンテンツをFlipboardに最適化された形で閲覧することも可能だ。

 パートナーのコンテンツはHTML5ベースで提供され、印刷媒体の「全面広告」のようにページをめくった際に全面表示される広告を入れることができる。広告に関してはパブリッシャーが印刷媒体同様に販売することが可能だ。パートナーとしてコンテンツを提供する「VANITY FAIR」では、現在映画「Snow White and the Huntsman」の広告を配信している。広告をタップすると映画の公式Twitterページに遷移し、Flipboard上で映画に関する情報や予告動画の閲覧、チケット購入、各コンテンツのリツイートなどが可能だという。

 広告売り上げについては、Flipboardとのレベニューシェアをする。レベニューの具体的な数字は非公開としたが、パブリッシャーの割合が高いという。「重要なのは、Flipboardの成功は、パブリッシャーの成功と共にあるということ」(McCue氏)

 今回の日本語版提供では、インターフェースの日本語化に加えて、日本のパートナーのコンテンツの閲覧(パートナー以外にも、日本のメディアのRSSもデフォルトで登録されている)や、日本在住のキュレーターが選んだコンテンツの閲覧が可能になる。日本では、すでに日経BP社がパートナーとなっているほか、複数社と話し合いを持っているという。また日本では、広告販売においては広告代理店とパートナーシップを結んでいくという。国内拠点の設立についても検討しているが、数カ月はかかるとした。

<ドコモ>新機種ほぼスマホに らくらくフォンも

NTTドコモは16日、夏モデルの携帯電話を発表した。新機種17機種のうち16機種がスマートフォン(多機能携帯電話)で、「スマホシフト」を印象づけた。流行に敏感な利用者層だけではなく、シニア世代や女性向けに特化した機種も投入。また、スマホ購入の障害となっている実質販売価格も下げ、利用者の拡大を図る。

 「らくらくスマートフォン」(富士通製)はシニア世代に特化した新機種。タッチパネル上のボタンが大きく、押し間違えがないように配慮した。通話機能では、相手の話す速度を落として聞ける「ゆっくりボイス」機能も付けた。

 また女性向けにデザインされた富士通製機種「アンテプリマ」は、専用ペンでタッチパネルを操作できる。ネイルアートでパネル操作が不便に感じる女性のための機能だ。山田隆持社長は「生活スタイルに一番合ったスマホを選んでほしい」と語った。

 端末の料金も抑えた。同社のスマホ実質販売価格は、新機種の場合、2万円台が中心だった。しかし、夏モデルの16機種のうち15機種を5000円〜1万円台に抑えた。値下げは、月額利用料の割引という形で実質的には端末購入価格を補助している「月々サポート」の額を引き上げることで実現させた。いわば、ドコモの自腹で値引きをしている状態で今後、他社の販売戦略にも影響を与える可能性がある。【種市房子】

70億画素で世界中の美術作品を分析! Googleストリートビューは、次なるステップへ

インターネットを通じて高解像度の美術作品画像を楽しめたり、美術館内をストリートビューで観ることができる「Googleアートプロジェクト」が、日本でもサーヴィスを開始した。肉眼では捉えることができない細やかな筆のタッチまでが楽しめるという、70億画素という超高解像度画像は、いったいどんな機材で撮影されているのだろうか。そして、今回このプロジェクトに参加した島根県足立美術館には、どんな思惑があったのか。関係者たちに話を聞いた。

朝06:50発の便に乗って、羽田から米子空港まで1時間半。お隣りの出雲空港からのルートもあるそうだが、米子からのほうが距離的には近い。空港からは570円払ってバスに乗り、JR米子駅まで約25分。そこから観光客を乗せる無料シャトルバスに乗り換えるのだけれど、1時間に1本だから、待つ間の40分ほどで朝食をいただき、「ゲゲゲの女房」で観光客が増えたなんて話を運転手さんに聞きながら、さらに30分ほど走る。米子空港は鬼太郎空港というくらい、水木しげる先生の街なのだ。で、ようやくたどり着いたのが、「足立美術館」!

Googleアートプロジェクト」の話はご存じだろうか? 欧米でのサーヴィス開始が2011年2月からだから、知っている人も多いはず。ネットを通じて世界の美術作品と美術館をデータ化して閲覧可能にしようというプロジェクトで、古今東西の文章のデジタルアーカイヴ化を目指す「Googleブックス図書館プロジェクト」など並び、Googleの文化的プロジェクトのひとつだ。すでにパリのオルセー美術館やNYのメトロポリタン美術館など、世界151の美術館が3万点以上の作品を公開してる。作品のいくつかは70億画素という超高解像度で撮影され、50館ほどの美術館をストリートビューで館内散策できる。そして足立美術館は、今回「Googleアートプロジェクト」に初めて参加した日本の美術館6館のうちひとつなのである。

その足立美術館に海外からGoogleのスタッフが来日し、館内のストリートビュー撮影を行うという。取材許可も出た。GoogleをはじめIT企業は、総じて一般企業に比べて情報のコントロールに繊細で、取材のハードルは高い。なかなかある機会ではないので、カメラマンとふたりで取材に飛んだわけである。もちろん日帰りである。

Googleアートプロジェクト」にはほかに、国立西洋美術館サントリー美術館東京国立博物館ブリヂストン美術館といった大御所が顔を並べている。そのなかにあって足立美術館は、安来節で知られる島根県安来市にあり、岡山県倉敷市大原美術館とともにプロジェクトに参加する地方の美術館のひとつ。地元の企業家、足立全康の個人コレクションを基に創設されていて、横山大観のコレクションと日本庭園の素晴らしさで知られている。なんでも、『The Journal of Japanese Gardening』というアメリカの日本庭園専門誌のランキングで、9年連続日本一に認定されているとか。知る人ぞ知る美術館である。

「話があったのは2011年の夏ごろ。最初は著作権の問題を心配したんですが、現代日本画家の作家さんで、作品をネット上に公開することに否定的な方はいませんでしたね。まずは世界の人々に作品を知ってもらうこと。それが大切だということは、皆さん、共通の認識としてありましたから」

最初に話を聞いたのは足立美術館館長、創設者の孫である足立隆則だ。足立美術館では、年間来館者が2010年で59万人(11年は福島第一原発の事故の影響でちょっと減ったとか)、海外からは約8000人ほどという。敷地は「さぎの湯温泉」に隣接し、ついでに温泉に入ってどじょう料理なんかをいただくこともできるので、観光バスが停まる観光スポットにもなっている。

とはいえ、05年に日本の総人口が減少に転じて以来、地方の美術館にとって、海外からの来館者をいかに増やすかは大きな課題なのだろう。「大観と日本庭園」がウリの足立美術館でも、06年と08年の2回、わざわざ庭師を連れて米国にプロモーション行脚に出かけたとか。それでも、なかなか海外からの客足は伸びない。そんな地方の美術館にとって、「Googleアートプロジェクト」への参加要請は、願ったり叶ったりであったという。

「ほかにどんな美術館が参加されるのかは、ずっと知らされませんでした。ただ、作品だけでなくストリートビューで美術館そのものを体験できると知って、わたし自身はすぐに参加を決意しました。ヴァーチャルを体験したら次は必ず本物を観たくなる。そう信じています。米子空港はチャーター便の離発着もできますので、ビジネスジェットをおもちのお客様にもどんどんいらしてほしい」

そう言って館長は顔をほころばせる。Googleに最初に選ばれた日本の美術館のひとつであることは、地方の美術館にとって大きなチャンスに違いない。実際、取材の話があるまで、足立美術館大原美術館の存在を知らなかった。不勉強で恐縮である。ただ、日本から今回「Googleアートプロジェクト」に採用された美術館は、どうやらGoogleが厳選した結果というだけではなさそうなのである。

足立館長の次に話を聞いたのは、ライアン・フェラー。普段はシリコンヴァレー・マウンテンヴューのGoogle本社にいて、「Googleアートプロジェクト」の技術面を総括する技術者だ。かつてはNASAで火星探索機の開発にもかかわったらしい。そんなフェラーによれば、実はGoogleの候補リストにはもっとたくさんの美術館の名が挙がっていて、実際に声もかけていたそうだ。そのなかで今回のキューレションとなったのは、この6美術館が最初に参加を表明してくれたから。要は早い者勝ちだったというのが本当のところらしい。

しかも、多くの裁量が美術館側に委ねられている。ネット上では公開できない作品やコーナー、部屋があっても許されているし、どの作品を70億画素の超高解像度で公開するかも、美術館側の判断だ。その代わり、公開に際する作家との一切の交渉や著作権のコントロールは、美術館に任されている。Googleは、あくまでもプラットフォームを提供するだけというスタンスだ。

「それまで屋内版のストリートビューがなかったので、専用の撮影用トローリーを開発することから始めました。特に、屋内ではGPSが使えないので、美術館内部を3次元データで正確にトレースする必要があります。その3Dデータと水平垂直を探知するレーザーセンサー、さらに加速度計、ジャイロスコープを駆使し、さらにタイヤの動きなどを新しく開発したソフトで算出しながら、館内の正確な位置を割り出し、15台のカメラを使って撮影していきます。屋外のストリートビューはクルマに載せてシャッターも自動ですが、この屋内用は人がゆっくりと手で押しながら、撮影ポイントごとに停止しては、1度に5回シャッターを切りながら進みます」

作品はもちろん、美術館の建築空間のディテールにいたるまで再現することが「Googleアートプロジェクト」の目的である。撮影のプロセスは、屋外よりもずっと手間がかかる。しかもすべてHDR(ハイダイナミックレンジ)撮影。展示スペースはそれほど広くはない足立美術館でも、撮影には丸1日、時間にして8時間かかったという。

さらに、70億画素の超高解像度で撮る作品にも1カットでかなりの時間がかかるという。じつはひとつの作品を数千カットにも分けて撮影し、後でつなぎ合わせるという気の遠くなるような作業によって、70億画素の写真は実現しているのだ。ちょっとした振動で、ピントが少しでも狂えば撮り直し。これまでの最長で8時間。これまた1日がかりである。日本の美術館でこの超々ハイレゾ写真を撮ってもらったのは、東京国立博物館所蔵の可能秀頼筆、国宝「観楓図屏風」と、足立美術館横山大観「紅葉」のまだ2作品だけ。なにしろ肉眼より細密だから、70億画素で世界中の美術作品を分析できることは、研究者や専門家にとっても朗報のはずだ。

ちなみにGoogleMapでおなじみの屋外ストリートビューのカメラも、あまり知られていないが、日々進化しているのだという。以前は魚眼レンズのカメラ数台で撮っていた画像が、いまはアートプロジェクト用のトローリーと同じ15台のカメラを使用し、解像度も格段に上がっているとか。そうやって最新のカメラで撮られた画像によってGoogleMapのデータは徐々に更新されており、日本だと東日本大震災の被災地や仙台市内のストリートビューは、この最新カメラで撮った画像にすでに差し替えられているそうだ。

「たぶん始まりは2010年の初頭ぐらい。Googleには“20%プロジェクト”というのがあって、勤務時間の20%を使って新しいアイデアにチャレンジしてもいいという規定があります。アートプロジェクトもそこから始まり、いまでは国際的なビックブロジェクトに育ちました。一応、パリにある『Google Cultural Institute』(死海文書やホロコーストネルソン・マンデラの資料等々、文化財・歴史的資料のデジタルアーカイヴ化を担当)とマウンテンヴューの本社に専属のスタッフがいますが、世界中でたくさんのスタッフが“20%プロジェクト”の時間を使ってかかわっています」

Googleのプロジェクトの進め方は、縦割りでヒエラルキー構造に支えられた従来の企業とはかなり趣を異にしている。そのイメージはもっとフラットで流動的、かつパラレル。しかも、売上や利益という評価指標をもたない。とても採算がとれているとは思えない。不思議なのは、こんなに手間と時間と予算をかけてGoogleにはどんなメリットがあるのかという疑問。それに、このプロジェクトにはいったい、いくらかかっているのか? 気になるところだが、Googleがそういった具体的な数字を出したがらないのは有名な話。案の定、フェラーにも笑ってはぐらかされる。

「“予算”とか“売上”とか“投資対効果”といった思考で、Googleが製品を開発したりプロジェクトを進めることはありません。評価は、強いて言えばページヴューということになるでしょう。いずれにしろ、インターネットのユーザーが喜び、驚き、メリットを感じることができれば、それはGoogleにとってもいいことなのです。アートプロジェクトでは、さらに美術館に実際に足を運ぶ人が増え、参加してくれた美術館の方々がよかったと思ってくれればそれでいい。それがわれわれにとってのベネフィットなんです」

今後「Googleアートプロジェクト」で閲覧可能な美術作品とストリートビューで館内を歩ける美術館の数は、どんどん増えていくだろう。興味と好奇心さえあれば、古今東西の美術に関する膨大なアーカイヴに、コストをかけずに誰もがアクセスできるようになる。そんな環境で育った才能が生み出すアートとは、いったいどんな表現になるのだろう? ポストGoogleアートプロジェクト作家出現の予感は、ぼくたちをちょっとワクワクさせる。ただひとつ心残りは、カメラマンが早く帰りたいというので、島根まで行ったのに温泉にも入れなかったことである。