月額980円で大人気、激安イオン携帯普及の波紋

月額たったの980円。通信料の高いスマートフォンが市場を席巻する中、低価格のデータ通信サービスが浸透している。

 仕掛けたのは大手スーパーのイオンだ。回線貸しを行う通信ベンチャー日本通信のインフラを利用し、サービスを展開する。日本通信自身は、競争促進を図る総務省の方針の下、NTTドコモの通信網を原価で借り受ける権利を認められている。

 イオンの通信サービスは速度が遅く通話もできないものの、月額5000円超のドコモの料金プランに比べ、価格は5分の1。圧倒的な安さが支持され、6月に14店舗で販売を開始すると、全店舗で即日完売。その後も勢いは衰えず、毎月の新規契約数は5000〜6000と順調。11月下旬には全国265店での販売に踏み切った。

 今年の夏に契約した30代の男性は「メールやサイト閲覧程度なら、これで十分」と満足げだ。

 販売を担当するイオンリテール・イオンニューコム事業部の寺田修平氏は「好調の要因は、スマートフォンの普及で通信料金が高いという不満が増えていることだ」と話す。当初はマニア向け商品だったが、最近は家族連れや女性の購入も増えている。

 イオンの成功により、成長市場の通信業界に参入できる回線貸しサービスに対し、異業種からの注目はがぜん高まっている。

 11月末には、総合商社の一角、丸紅が日本通信合弁会社を立ち上げ、法人向け通信サービスを開始。また家電量販店のヨドバシカメラも参入を検討している。日本通信の福田尚久専務は「イオンが成功したことで、突破口が開けた。今では通信とは縁遠い業種からの問い合わせが殺到している」と目を細める。

■ドコモが怖く宣伝自粛

 しかし、販売好調でも、イオンの売り方は極めて控えめだ。店頭にデモ機の展示はなく、売り場の片隅に看板を掲げるだけ。格安サービスの販売を嫌がる、通信事業者への配慮がうかがえる。

 6月に発売を開始した際、事前の宣伝や告知はいっさいなし。販売に火がついたその後も、テレビCMやチラシ広告での販促を打っていない。これは自社商品に力を入れる同社としては、異例のことだ。

 それもそのはず。端末を販売する小売事業者が通信業に乗り出すと、「通信事業者が『今後の関係が変わるかもしれないですね』などと暗に圧力をかけ、潰しにかかる」(関係者)こともあり、神経をとがらせているためだ。

 ドコモの端末を横に並べて通信サービスとセットで売る選択肢もあるが、「ドコモを刺激する演出はできない」(イオンの寺田氏)と言う。

■「通信会社は儲けすぎ」

 携帯業界は競争の少ない寡占市場だ。事業を行うには免許が必要な規制産業で、設備投資も数兆円規模でかかるため参入障壁が高い。ドコモなど大手3社だけで市場の9割以上のシェアを占めている。

総務省は競争の自由化を推進。ドコモなどの反対を押し切り、08年以降、日本通信のような、通信事業者の既存のインフラを活用する事業者を誕生させた。

 それでも通信会社の支配力は依然強大だ。端末と通信サービス、双方の流通を掌握し、セット販売することで、競争激化を避けてきた。この構図が、突出した高収益を生んでいる。実際、2011年4〜9月期のドコモ、ソフトバンクの営業利益率は20%超。来12年度は客単価の高いスマートフォンの普及で、さらなる伸びが見込まれる。

 「儲けを新規産業や海外事業に投じているのだから批判には値しない」(SMBC日興證券の森行眞司アナリスト)とする見方もある。

 一方で、身内のNTT東日本ですら、「ドコモの利益率は異常。料金が高すぎる」(同社幹部)という声を上げる。

 異業種からの参入は、こうした業界構造を変える可能性を秘める。ただ、通信会社の抵抗は必至。割安の通信料が浸透するまでには、激しい攻防が繰り広げられそうだ。

(麻田真衣 撮影:梅谷秀司 =週刊東洋経済2011年12月10日号)
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