<ドコモ通信障害>スマホ急増でパンク 対応後手に

NTTドコモの携帯電話で相次いだ大規模な通信障害は、スマートフォンスマホ)の本格普及で通信量が急増し、携帯電話会社のインフラ整備が追いついていない実態を浮き彫りにした。動画やゲームのやりとりなどスマホの多機能化が進み、こうしたデータ通信量は国内で今後数年で10倍以上に膨らむとの見方もある。事業者の対応が伴わないとトラブルもやまず、通信インフラに対する信頼も損なわれかねない。

 「見極めに甘さがあった」。26日記者会見したNTTドコモの岩崎文夫取締役常務執行役員は、25日の通信障害について、通信量が想定を上回ったために発生したと釈明した。

 ドコモは、データ通信を仲介する「パケット交換機」11台を25日未明までに新型3台に切り替えた。スマホの利用者は、通信をつないだままにするケースが多いため、新型は同時に接続できる利用者数を旧型の約2倍に増やした。だが、「同時接続数の増強に目を奪われ」(岩崎取締役)、新型3台が処理できる通信量は旧型11台の合計の半分しかなかった。25日朝は1時間当たりの通信量が想定の1.3倍に膨らみ、新型の許容量をオーバーしたという。

 ドコモは11年11月、スマホの低料金プランを導入し、11年4〜12月のスマホ販売は553万台と10年度の倍以上に増えた。だが「従来の携帯電話で利用されてきた『iモード』とスマホのデータ通信を同じ通信設備で処理してきたため、システムが複雑化し、処理能力が低下している」との指摘がある。ドコモはパケット交換機の一斉点検などの対策を発表したが、アップルの「iPhone(アイフォーン)」などスマホの販売競争が過熱する中、「通信量の急増に抜本的な対策を講じない限り、通信トラブルはなくならない」(アナリスト)との見方が強い。

 東京都内の男子大学生(22)は「スマホに買い替え、動画投稿サイトなどインターネットを使う時間が増えた」と話し、若者を中心にパソコン代わりに使う場面が増えている。しかもスマホの利用者の多くは、どれだけ通信しても料金が一定の「定額制サービス」に加入しており、スマホの通信量は「(従来の携帯電話に比べて)10倍はある」(通信業界関係者)という。

 調査会社、MM総研の推計によると、11年度の携帯電話出荷台数は4160万台。このうち56%をスマホが占める見通しで、初めて従来型の携帯電話を出荷数で逆転する。スマホは契約数(既契約者も含む)でも15年3月末に従来型の携帯電話を上回る見通し。同社の横田英明取締役研究部長は「今後数年で通信量は10〜20倍に達する可能性がある」と指摘。「携帯電話会社は増加ペースを甘く見積もった結果、インフラ整備などが後手にまわった」と分析する。

 携帯電話各社は、電話回線とは別に、無線でネットに無料接続する「Wi−Fi(ワイファイ)」の接続ポイントを増やすことで、電話回線の通信量を減らす計画を進めている。だが、「Wi−Fi」に接続できる場所はまだ限られる。KDDI田中孝司社長は26日の記者会見で「(通信)ネットワークの中をこれだけ多量のトラフィック(情報量)が流れて、耐えられるのか」と不安を漏らした。

 ◇行政は事業者任せ

 総務省は「通信設備は、サービス内容や利用者数に応じ、事業者自らが決めるもの」(総合通信基盤局)とし、一義的には事業者の責任との立場だ。しかし、通信は企業活動や生活に欠かせないインフラとなっており、通信の質を確保するための対策を求められる。

 通信混雑対策として、総務省は「プラチナバンド」と呼ばれる700メガヘルツ帯と900メガヘルツ帯の周波数を利用する方針だ。プラチナバンドは、電波が建物などの障害物を避けて通りやすく、通信状態の改善につながる。総務省は地上アナログ放送などに使われ、現在は空きスペースとなった周波数帯を、15年までに計3社に割り当てる。第1弾として1社に900メガヘルツ帯を割り当てる計画で、27日に公募を締め切る。

 ただ、新たな周波数割り当ては、データの「通り道」を確保する手段に過ぎない。増大する通信量をさばく「交通整理」には、設備の処理能力を高める必要があるが、そのための投資は事業者任せとなっている。総務省は26日、ドコモに通信設備の増強を求めたが、通信の質向上にどこまで行政が関わるかも課題となりそうだ。【種市房子、赤間清広、宮島寛】