Retinaディスプレイは感動するほど高画質、新型iPadの美しい進化

 第3世代となるアップルのタブレット(多機能携帯端末)「iPad」が2012年3月16日に発売になる。すでに初代iPadや「iPad 2」を所有している人は、第3世代のiPadの実力が気になっているだろう。結論から言うと、ぜひ買い替えをお勧めする。ホームページの情報を見ると、変わったのはディスプレイだけと思うかもしれない。だが、このディスプレイの変化は多くの人が想像している以上にiPadの能力や表現力を大幅に引き上げている。実際に使ってみると初代iPadからiPad 2に変わったときよりも驚くはずだ。


Wi-Fi+4Gモデル」を発売前に一足先に試用できたので、その使用感をリポートしたい。

目を奪われるRetinaディスプレイ

 新型iPadの最大の売りであり、一番の強化点は新しい「Retinaディスプレイ」。2048×1536ドットの超高解像度で、ピクセル数は310万にも上る。解像度はiPad 2から縦横ともに2倍、ピクセル数は4倍に増えている。解像度は40型や50型のフルハイビジョン(1920×1080ドット)のテレビよりも高い。それが9.7型のディスプレイに収まっているのだから、驚異的にキメが細かい。目を凝らしても液晶画面特有のギザギザ感が全くないのだ。彩度もiPad 2から44%向上しており、写真などをきれいに見られる。

 数字だけでその凄さは分かるが、実際に見るとそのきれいさに目を奪われる。画面に並ぶアイコンのエッジは滑らかで、「メモ」アプリの文字はシャープでにじみが一切ない。写真は髪の毛の一本一本、顔の細いしわなど、iPad 2では見えなかったディテールまではっきりと見える。「マップ」アプリでは、拡大しなくても地名や細い路地が読み取れる。「iBooks」アプリの電子書籍の文字は、紙に印刷したものと比べても遜色(そんしょく)ないほどだ。ちらつきもなく、長時間見ていても目が疲れにくく感じた。iPadを使うあらゆるシーンで、Retinaディスプレイの高精細さが生きてくる。このディスプレイの画質は感動するほどきれいだ。

 iPadは、私たちが毎日するWebページの閲覧やメールの読み書き、デジカメ写真の閲覧などをより手軽にするためのものだ。タブレットの顔であり一番重要な要素であるディスプレイの大幅な改良は、iPadでできるあらゆることをさらに快適にしてくれる。Retinaディスプレイだけでも新型iPadに買い替える価値は十分にある。描画処理能力を高めた新プロセッサー「A5X」

 iPadの頭脳であるプロセッサーは、描画処理を担う4コアのグラフィックスプロセッサーを内蔵したデュアルコアの「A5Xチップ」だ。画像を処理する能力が高まっており、家庭用ゲーム機に匹敵するリッチな表現のゲームなどを高画質で楽しめる。画像や動画を扱うアプリも軽快に動作する。

 動作速度はiPad 2とほぼ変わっていない。変わっていないというと、ネガティブに聞こえるかもしれないが、そもそもiPad 2は競合他社の商品に比べて動作速度で劣っていない。最新の基本ソフト(OS)「iOS 5.1」は完成度が高く、動作は機敏だ。使っていてストレスを感じることは全くない。タッチ操作に対する反応やフィーリングも軽快だ。思ったところにタッチができて、操作から操作の間の待ち時間もない。スワイプ、ピンチ、スクロールなども滑らかだ。

 ディスプレイの高解像度化により、消費電力は上がっていると考えられるが、バッテリーの駆動時間はiPad 2と同じWi-Fi接続時で約10時間。携帯電話ネットワークを利用した場合も約9時間と変わっていない。

 新型iPadには、次世代高速通信(4G)に対応したWi-Fi+4Gモデルもある。海外では下り最大73Mbpsの「LTE(Long Term Evolution)」までサポートしており、これまでの3Gネットワークよりも快適にインターネット動画などを見られる。HSPA+やDC-HSDPAなどの3Gネットワークにも対応している。日本ではソフトバンクモバイルWi-Fi+4Gモデルを発売するのだが、同社はLTEサービスを展開していない。そのため、日本では3Gネットワークでしか利用できない。

値下げのインパクトはないがお得な価格設定

 気になる価格は、iPad 2から2000円安くなった(Wi-Fiモデル)。一番安いのは、記憶容量が16GBのWi-Fiモデルで、実勢価格は4万2800円。値下げ額にインパクトはそれほどないが、Retinaディスプレイを搭載してさらに安くなったのは驚きだ。そのほかにもいろいろな機能が強化されている(下表)。唯一、新型iPadの弱点をあげるとすれば、Wi-Fiモデル、Wi-Fi+4Gモデルともに約50g重くなっている点だ。携帯性を重視する人は気にするかもしれないが、新型iPadiPad 2を持ち比べたところ差はほとんど感じられなかった。厚みも増しているが、0.6mmとほんのわずかだ。

500万画素の「iSightカメラ」は仕事に便利

 iPad 2の弱点だった背面カメラは500万画素の「iSightカメラ」に強化された。F値2.4の明るい5枚のレンズを備え、太陽光の下はもちろん、室内でもノイズの少ない写真を撮影できる。画像の信号処理はA5Xチップの中で処理される仕組みで、高い色再現性を実現している。カメラの起動も高速だ。同社のスマートフォンiPhone 4S」のカメラと同じようにオートフォーカス、タップしてフォーカス、タップして露出設定などの機能を備える。最大10人の顔を検出してピントや露出を自動的に調整する機能も搭載している。画面に表示されるシャッターボタンが常に右手の親指の位置に移動する親切設計なのもうれしい。

 画質が上がったことで、カメラを使う機会が増えるのは間違いないだろう。ビジネスパーソンなら会議のホワイトボードやメモを撮影して、後で細かいところを拡大して確認するのに便利だ。毎秒最大30フレームのHD(1080p)動画も撮影できる。動画撮影時は、映像が揺れたり、ぶれたりするのを防ぐ自動手ぶれ補正機能が働く。写真と同様、品質の高い動画を撮影できる。

iPadは「見る」だけでなく「作れる」タブレット

 第3世代のiPadに合わせて、Macの写真編集ソフトでおなじみの「iPhoto」のiPad版が発売になった。数回のタッチとドラッグ操作で、写真の色味や明るさを調整したり、エフェクトをかけたりできる。賢いアプリで、色を変えたい場所(例えば空や海など)をタッチして上下左右にドラッグすれば、写真全体のバランスを見ながら、その場所の色見や明るさを調整してくれる。逆光で暗く写ってしまった顔を明るくする場合は、明度を上げるブラシを選んで顔の部分をタッチすれば、顔だけが明るくなる。顔以外の部分は明るくならないので、すこし雑にタッチしても問題ない。右上のアイコンをタッチすれば、調整前の写真にすぐに戻れるので、失敗を恐れずにいろいろな編集を加えられる。

 編集機能も便利だが、写真を選ぶ「スマートブラウジング機能」もよくできている。写真をダブルタップすると、アルバムの中から同じような構図の写真を自動で収集してくれる。2枚の写真の同じところを拡大して、見比べることも可能だ。上手に撮影できているか心配で、何枚も同じ写真を撮影してしまう人には助かる機能と言える。そのほかにも写真を自動でレイアウトして写真集のように仕上げてくれる「ジャーナル」、iPhoneで撮影した写真を、フル解像度のままワイヤレスでiPadに取り込める「フォトビーミング」などの機能も備える。

 アップル純正アプリである「iMovie」と「GarageBand」もバージョンアップした。動画編集アプリのiMovieは、制作時にどこにどの映像を入れるかを決める絵コンテを基に、ハリウッド映画の予告編のような面白い映像を作れるようになった。新型iPadで撮影した1080pの動画ももちろん使える。テンプレートは9種類。BGMにはハリウッド映画の音楽などを手がける有名作曲家が書き下ろした曲が使われている。「Apple TV」を使って大画面テレビに映し出せば、家族や友達で盛り上がれるはずだ。

 音楽作成ソフトのGarageBandは、音源に弦楽器(バイオリンやチェロなど)を追加。音楽に詳しくない人でもサンプル音源をパズル感覚で並べれば、不思議なことにちゃんとした曲ができあがる。今回は試していないが、4人でiPadを持ちよってセッションすることも可能になった。楽器としても注目されるiPad。音楽好きの人には、ますます欠かせないアイテムになりそうだ。

 iPhotoiMovieGarageBandを使っていると、これまで「見る」が主な使い方だったiPadが、パソコンのようにコンテンツを「作れる」機器であることを強く感じた。しかも作る行為自体が面白い。iPadを傾ければ、iPhotoで写真の角度を変えられるし、iMovieiSightカメラで撮影したものをすぐに作品に盛り込める。GarageBandは、弦を抑えたり、鍵盤を叩く代わりに、画面をタッチしてギターやピアノを奏でられる。何かを作る楽しさを思い出させてくれる、そんなアプリ群だ。

精度の高い音声入力

 iPhone 4Sの音声アシスト機能「Siri」の日本語版サービスがはじまり、話題になっている。新型iPadではSiriを使えないが、音声入力機能が追加された。これが想像以上に便利だ。句点や読点が上手く入力できないので、長い文章を入力するのは難しいが、精度が高くて短いメールや検索窓への文字入力は声だけで済んでしまう。家で寝転んで使う場合にはソフトウエアキーボードよりも間違いなく便利だ。

タブレット市場の主役の座は譲らず

 パソコンの高性能とスマホの携帯性を併せ持つiPad。今回の新型iPadは前者のパソコンのような高性能さを強めている。より高精細なディスプレイと高い描画処理能力を持つプロセッサーを搭載。アップルストアなどでRetinaディスプレイの驚異の画質をぜひ一度見てもらいたい。必ず驚くはずだ。クリエイティブなアプリも併せて提供し、iPadはコンテンツを「見る」だけでなく、「作れる」ものであることも示してくれた。Retinaディスプレイと高い性能を生かした他社製のアプリにも期待したい。

 iPadは、2010年5月28日に初代iPadを発売されてから、たったの2年間で累計5500万台を売り上げた。タブレットという新しい市場を作り上げ、インターネット端末としてパソコン、スマホに次ぐ地位を確立したと言える。日本でも企業、学校、家庭などさまざまなシーンに入り込んでいる。若いビジネスパーソンはプレゼン用のツールとして使っている。教科書やノートの代わりにiPadを導入する学校も増えている。子育て中のお母さんにとってはレシピ帳であり、子供をあやすおもちゃでもある。同社のティム・クックCEOが7日の発表会でいったように、iPadはたった2年で普通の人々の生活になくてはならない存在になりつつある。他社もタブレット市場に参入はしているが、いまのところiPadのような成功はどこも収められていない。しばらくはタブレットの本命はiPadで変わらないだろう。同社が先導して切り開いている「ポストPC」(パソコン後の革命)の世界が到来するまでiPadの勢いは続きそうだ。